恋愛力―「モテる人」はここがちがう


恋愛力―「モテる人」はここがちがう

恋愛力―「モテる人」はここがちがう

 最初に見かけた時には、あちゃー、とうとうやっちまった、と見て見ぬ振りを決め込もうかと思った。
 イヤ〜な胸騒ぎがして、調べてみたら中谷の著作*1にもあって、さらに落ち込む。


 思い切って読んでみようと思い立ったのは、「婦人画報」の対談でフジ子・ヘミングさんに「好きです」と言われているのを読んだ時。
 齋藤様ご自身も「最大の賛辞を頂いた」と言われていたように、シンプルにして、最強。どんな比喩や感情表現も及ばない言葉のチカラを感じ、「好き」はすごいことなのよね、と改めて感じたことに因ります。


 というわけで、余り期待も抱かず読み始めた「恋愛力」だったのだけど、読後感キッパリ言うと、「好き」。
 面白いし、他の著作とはひと味違った齋藤孝が楽しめます。



 村上春樹(齋藤様曰く「恋愛小説の名手」)の著作や、「冬のソナタ」のセリフなどを引用しながら、「恋愛力」を考察するという、よくある齋藤スタイルの一つを採っているのだけど、他の著作と明らかに違う点がある。
 今までは「○○力」について言及する時、齋藤孝はそのチカラに自信満々で、君達に私の溢れる才能の秘訣を教授してあげよう、というスタンスだったのが、この「恋愛力」に限っては、「できんぼ孝」が立ち位置となっている。
 

 道化者孝クンが、時々調子に乗りながら、お手本となるテキストを解説しつつ、自らのトホホな恋愛遍歴を述懐。
 こんなこと言ってるから女性に嫌われるのである、とか、自画自賛系はもてない、とか、至る所でぼやいている。


 しかーし!よく読むと巧妙に仕掛けてあって、このトホホ孝クンは、しっかり練り上げられたキャラクターなのです。
 過去に大失敗した、というエピソードもその相手は「今は私の女房になっている」ので、必要以上に惨めな自虐キャラになっていないし、奥様とのエピソードということで、あくまでも自分の立ち位置は安全圏内に収まっているというわけだ。


  一見、「恋愛に関してはだめなボクが自分に足りない恋愛力を考察してみる」のようだけど、今回はできんぼキャラで遊びながら、世の恋愛至上主義な風潮を茶化しているようにも見える。
 村上春樹著書の主人公や、ヨン様(演じるミニョン)の恋愛コメント力を絶賛しているけれど、本当は面白がってるんだよね。


 ・・・と、私は読んだのですが、でももしかしてホントにホントはマジに語ってる?恋愛力。
 もしかして、本当に「この論理的な言い方に、女性はしびれてしまう」と思ってる?「そこに女性はたまらない魅力を感じるに違いない」とか思ってる?
 本気だとしたら、余りのステレオタイプな(しかも旧式)女性観をどうにかした方がいいのではないかと思うのだけど、ここの見極めが微妙なの。


 そのリトマス試験紙になるのは、「君にそう言われると心が和むね」(村上春樹ノルウェイの森」下)と実際に奥様に言ったのかどうか?
 これけっこう、核心を突いた質問と思うのだけど、確かめる術がないのが残念です。
 どなたか、齋藤様に直接聞く機会に恵まれたら、是非聞いてみてくださいませ。


 もう一つ、従来の齋藤孝本は、微妙にリンク*2し合い、時には「同じネタ使い回しやん!」という無節操さもあったけれど、「恋愛力」はかなり独立した位置に在る本である。


 齋藤孝ちょい囓りの夫に
「この本は、『どれ読んでも同じ』じゃないよ。三色ボールペン偏愛マップも出て来ない」と言ってみた。
 さしもの齋藤孝も「三色ボールペンでラブレターの添削」とか「初めてのデートで偏愛マップを交換しよう」(これはちょっと言いそうだけど)とは「恋愛力」においては主張していない。


 しかし、返ってきた夫の言葉は
ドストエフスキーは?」


・・・出てきた。


 とは言え、工夫も研鑽の意欲も感じられない筑摩書房の「○○力」シリーズは、もういいよと思っていたけれど、ここに来てこの「恋愛力」は読み物として面白みのある本に仕上がっていると思う。
 他の「○○力」とは一線を画す内容なので、イメージも一新したらいいのにと思うけれど、相変わらずの装幀でさらっと出してしまうところが、粋なのでしょうか。


 そんな訳で、この「恋愛力」、かなりお薦めです。
 ただし対象は、齋藤孝に興味を持ち始めて、テレビや雑誌で齋藤ワールドにほんのちょっと触れてみたけど、どの本読んだらいいかしら、と思っている人。


 そして、老婆心ながら木曜日に読むことをお薦めします。
 孝クンの恋愛観を堪能して、その翌朝、とくダネ!でこつこつとクールビズ運動に勤しむ齋藤クンを「孝ったら」とか思いながら鑑賞するのも乙なものでしたわよ。
 私は、たまたま先週の木曜日に読んでいたのですが。こういうところで、生が効くとくダネ!
 含みを持たせたわりにはどうってことなくて申し訳ない、私だけのお楽しみでした。

*1:『ハッピーな女性の「恋愛力」―幸せに見えてますますモテる48の法則』リンク貼りません

*2:ベン図で表すと分かり易いだろうから、いつか図表化してみたいとは思っているのだけど