使える!『徒然草』


使える!『徒然草』 (PHP新書)

使える!『徒然草』 (PHP新書)


 使える、使える。ただ「徒然草」を現代社会にも当てはまる処世訓として読むというのは目新しいことって訳でもないけどね。
 

 どうもおっさんの処世術ってイメージがあるのは、多分10年以上も前に読んだ徒然草の知恵―乱世を生きぬくダンディズム (講談社文庫)嵐山光三郎・著)のせいだと思うけど、この「使える!」もビジネスマン向けだし、これが「徒然草」の一般的ポジションなのでしょうか。


 これ、「THE 21」に連載されていたものをまとめたもので、私の好きな「めざせ!ゼウス」の前身らしいのですが、テーマをギリシア神話に変更しなくてもよかったのでは?と思う程、読ませる内容です。「THE 21」の読者に読ませておくのは惜しいくらい。


 現行の連載のように、ギリシア神話の素材からネタを拾ってきてアレンジするまでもなく、「徒然草」ならまんま人生訓が列挙されているので、書く方もやりやすいだろうし、読み手にも為になるし。
 アレンジのない分、オリジナリティがなくなりそうなところだけど、齋藤様ならではの切り口あり、現在の齋藤孝を確立するまでの曲折などもありで、ミーハー層をも満足させる仕上がり。軸足ぶれることなく、そしてそのスタイルについての著述もあり、齋藤理解には欠かせない一冊。「どれ読んでも同じ」という人にこそ読ませたけれ。(「こそ」+已然形で係り結びの法則。一応古典なので)


 この本の中で最も秀逸だと思ったのは、「存在感」の尺度。

 最近、私は人の「存在感」をある程度、客観的に測定する尺度を発見した。
 それは、その人物が不在のときの被引用回数、つまり、その人がいないときに、どの頻度でその人のことが話題になるかということだ。
(「ネーミングと存在感」【第四十五段】より)


 今のところ、周囲の関心は薄いとのことだけれど、この尺度はかなり画期的だ。
 不在時の存在感というものを、私も常々感じていたけれど、「被引用回数」と具体的な尺度を持ってきたところが齋藤的。
 やはり、みんなが漠然と感じていることをしっかり捉えて明確に輪郭を付けることにかけては、天才だと思う。
 ただ、その「被引用回数」を知る為の具体的な方策が提示されていないのが難点で、「ねぇ、私のいない時、どれくらい私のことが話題になってる?」なんて直球勝負は余程のナルちゃん、もしくはそう評されても構わないという覚悟の持ち主でないと難しい。
 不自然でないリサーチ法さえ編み出せば、「存在力」という著書が書けるでしょう。頑張れ、各出版社の齋藤番。