眼力

眼力

眼力

 筑摩書房御中、ごめんなさい。ベタ一色の表紙+でかい文字で「○○力」は全部貴社刊のものだと思い込んでました。
 こないだの「自己プロデュース力」は大和書房だったし、この「眼力」は三笠書房筑摩書房だけの専売特許じゃなくて、業界全体で寄って集って捻りのない「○○力」でおなじみの齋藤孝に仕立て上げようって魂胆でしたのね。
 でもご自身としては、ポスト「声に出して」は「座右の」齋藤孝で、とのご意向らしいですことよ。ご一考くださいませ。


 この安易にドジョウの群れを分け合おうとする、業界挙げての似たようなネーミング、装幀具合が、ほとんど読んじゃいない人に限って言いたがる「齋藤孝なんてどれ読んでも同じ」を助長しているので、本当にどうにかして欲しい。
 寝る間も惜しんでほとんど飲まず食わずで、マッピングコミュニケーションフル稼働の会議に会議を重ねた末に、泣いて馬謖を斬る程の断腸感*1を以て他の候補を却下した結果が、たまたま各社限りなく酷似に近い類似を産んでしまったと言うのなら「いやぁ、やっぱり良いものは似て来るもんなんすね」なんて愛想笑いしながら後ずさりで去っていくけどさ。


 似たようなの多いって言っておきながら、なぜ本書のみこんなに絡むのかと言うと、烏合の「力シリーズ」の中でもこの「眼力」はさらに一線踏み外してしまっちゃいないかというのが、とてもとても気になっているからだ。
 他の「○○力」は造語、齋藤発のコンセプトがそのまま書名になっていて、まぁ齋藤オリジナルな体裁は整えている。それに対して「眼力」はもともとある熟語だ。

がんりき 【眼力】
〔「がんりょく」とも〕
(1)事物の理非・善悪を見分ける能力。がんりょく。
「真贋(しんがん)を見分ける―」
(2)視力。がんりょく。
   三省堂大辞林 第二版」

 確かに本書の内容を最も言い当てる語ではあるけれど、安易に既成の概念で間に合わせてしまってるような、お手軽感は拭えない。
 どうしても「眼力」で行きたいなら、装幀でブレイクスルーしてみるとかさ。何かしら一工夫がほしい!!と願うのは、齋藤眼力が付いてきた証拠と見ていいのか否か。


 そしてそこまでしても冠したかった「眼力」だけど、この本でより身に付くのは座標軸思考法かも知れない。
 眼力を養うという抽象的なスキルを、なんとか具体的な物差しで測ろうと本書で試みているのが、定番齋藤方式である座標軸を使う方法だ。
 他の著書では思考法や論点を整理するためのツールとして、座標軸が登場するのだが、本書では、座標軸理解としての座標軸といった趣で、X軸、y軸の具体例が数多く示されている。


 数学アレルギーの呪縛なのか、座標軸思考法は、提示されるとなるほどと思うものの、実際自分で軸を取るところまでは理解できていないので、眼力云々よりも「座標軸力」を謳われた方が、サイトー力の強化に繋がるようで嬉しい。但し、教科書で言うと図表や便覧のような副読本的要素が強いので、一般向きではないけどね。・・・「眼力」にした編集者は深いのか?でも教科書より資料集の方が面白かったよね。授業聞かないで読み込んだりしてたもんな。


 でも眼力を養うための大本命「齋藤式『ゴールデン座標軸』」は一見の価値あり。客観的に人を見る目を養う指標になりそうです。
 やっぱり「座標軸力」じゃないか。

*1:残尿感の類義語っぽい