「五感力」を育てる
- 作者: 斎藤孝,山下柚実
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2002/10
- メディア: 新書
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それは少し前の「Goro's Bar」を見ていた時。
ゲストは、今やすっかりエロスの伝道者として、その役割が定着した感のある杉本彩様。自らに求められているものを正確に把握して、きっちりその期待に応える、良い意味での裏切りの無さは、バラエティ業界との蜜月関係を感じさせ、女王の風格さえ漂わせる彼女が、本丸である「セクシーとは?」の問いに、余裕たっぷりに答えていた。
「セクシーとは相手の五感を刺激することである」
妖艶な笑みを湛える彼女を見ながら、齋藤クンと話が合いそうだ、是非対談をして、五感とエロスについて深く掘り下げて欲しい、と思いつつ、確か「五感力」についての著書があったなと思ったのが今回の本。
しっかし!
おかしな前振りで引っ張ってしまって、誠に申し訳ないけれど、全くセクシー、エロス出てこない(至極当然)
でもそんなほんのり杉本彩色を期待しながら読み始めた邪な動機もすっかり吹っ飛んでしまう程、これは価値ある一冊。
齋藤様メインのテーマである「身体」「教育」に「五感」という切り口からアプローチしているのだけど、共著者の山下氏が「五感」に徹底的に取り組んでいる方だけに、齋藤クン鬼に金棒な感じ。
舌の根乾かぬうちにさっさと、真っ当な大人顔して言ってしまうと、本書は数多くある齋藤様の教育関係の著作の中でも、かなり優先的に読んで欲しい。特に小さい子どもに関わる人、その予備軍の方に。
早期教育だ、七田だ、DWEだ、右脳だ、家保だ、公文式だ…と言う前に。
と言ってもそれらを否定する訳でも、対極を成すものでもなく、そういう一切とは全く次元を異にする、謂わば生きていくための根幹に関わる問題として、小さい子どもに関わる全ての人に意識して欲しい「五感力」
山下氏は特にLD(学習障害)/ADHD(注意欠陥/ 多動性障害)の子どもと五感の問題について語っているけれど、基本的なところで、広く汎用性、応用性のある話だと思う。
五感とは視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚からなるが、本書では中でも特に触覚の重要性を訴えている。
本書で提言されている「五感力を育てる十のメソッド」も、そのうちの半分は触覚に直接に関わるものだ。
今の教育で、いや、もっと近く子育て、さらに言えば人との関わりの中で、蔑ろにされてきた触覚について認識を正すことが、五感力を育てる鍵のようだ。
説得力のある、両氏の対談、ルポ、そして実践的なメソッド。読み応えもあり、実生活にも還元される。不埒な動機にしては大きすぎる収穫だった。
もっのすごく卑近な例で申し訳ないけれど、本書を読んで以来、それまでは大ざっぱにわがまま、いたずらと見なして「ぐぉらぁぁぁぁぁ」と叱り飛ばしていたようなことも、「これは触覚を育ててるのかも」「これは味覚の訓練」と少し見守る余裕を持てるようになった。五感力フィルタを身に付けた感じ。
日常生活の中で「五感力を育てるメソッド」とか「五感教育とは!?」と熱く意識する必要はないけど、新たな視点を意識下にでも身に付ける意義は大きい気が、する。かも。手前味噌気味なのでちょい弱気で。
今回は大きく期待を裏切られた(良い意味で)形だけれど、前述の杉本彩的切り口からの五感力も、なかなかどうして捨て置くにはもったいないテーマだと思うよ。
「婦人画報」よりもうちょっと濃密で艶のあるテイストで、女性との対談。読んでみたい。って最後はやっぱり妄想か。